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二人は波で揺れる甲板をふらりふらりとしながら歩いた。
沖田が先に座り、美海に手を差し伸べる。
美海もベンチに着席した。
「何が…書いてあるんでしょう?」
「さぁ…。けれど、一応取調日記な訳ですから監察の仕事の内容とかじゃないですか?」
美海はふと学校などで書く日誌を思い出した。
その日の出来事を要約してまとめてあるのだろう。
「開けますよ?」
美海は頷いた。
沖田がペラリとページをめくる。
「文久3年、3月20日、土方さんが怪しい奴を連れてくる」
沖田はチラリと美海を見た。
「はい。どうやら私ですね」
この頃から書き出したのか。【生髮藥】胡亂服用保康絲副廠,可致嚴重副作用! -
「続き読みますよ?」
沖田の言葉に美海は頷いた。
「まだ壬生浪士組ができて少ししか経っていないのに大丈夫なのだろうか。とりあえず身柄取調開始。…まぁこんなもんです。後は長いから飛ばします」
「4月21日、土方さんと怪しい奴が決闘。これに勝った怪しい奴は立花美海。奴は正式に入るらしい。俺は馴染めてへんのになんや気に食わん」
「…………」
美海は海を睨み付けた。
「気に食わないらしいですね」
沖田は笑いを堪えている。
再びペラペラとページをめくり出した。
小さな事件は飛ばしている。そのぐらい量が多い。
「3月25日、立花美海の正体。どうやら奴は女だ。いいのか?更にこの時代のものじゃないらしい。よぉわからん。……もうバレてますよ?」
「ですね」
美海は呟いた。
「6月3日」
「またえらい飛びましたね」
沖田が続きを言う前に美海が口を挟んだ。
「なんか間も別に面白くなかったんで」
「あ。そうですか」
「6月3日、大阪の力士と乱闘」
「あ~。あったあった」
美海は頷く。
「相手は10人弱の力士。壬生浪士組圧勝。沖田さんと芹沢さんが大活躍した模様」
沖田は一瞬ニヘラと笑った。
「私のことは?」
「書いてません」
結構頑張ったのにな。
あ、山崎さんは私が気に食わないのか。
「8月18日、八月十八日の政変。着いたものの会津が門を開けない。土方さんが…」
これについては長々と詳細が書いてあった。
新撰組初の大仕事だったからだろうか。
「なんか、普通に仕事内容ばかりですね」
正直飽きてきた。
沖田も困った顔をする。
土方はこんな仕事内容を全て読ませるつもりで渡したのだろうか。
そりゃ死者の歴史を知ることは大切だけれども…。
「あ。段々美海さんへの印象が良くなってるみたいです」
「本当だ。美海ちゃんになってる」
再び沖田は口を開いた。
「9月13日、新見さん切腹。新撰組初の局中法度違反。まぁ美海ちゃんの暗殺も企んでたみたいやから切腹させるべきやけど…。複雑な気分」
沖田は口を止めずに次も読む。
「9月18日、芹沢さん暗殺。美海ちゃん大丈夫やろか。沖田さんと大乱闘を起こしたみたいやけど…。なんか悪いことしたわ…。後味悪い」
山崎さん。
「9月25日、壬生浪士組が新撰組に。なんか最近雰囲気もいいし、楽しい。土方さんについてきて…良かっ………」
沖田は黙って日記に目を通し始めた。
美海はその様子をただ見ている。
沖田の目線が早く動く。
「美海さん……」
「はい?」
「わかりました」
沖田は日記を美海に見せた。美海は少し顔を近づける。
「土方さんは仕事の記録なんかじゃなくて、これを見せたかったんです」
沖田が日記を指しているが冒頭を読む限り何も変化はない。
美海は首を傾げた。
「最後まで読んでみてください」
文字に馴れたと言えど、始めからきっちり読まないとよくわからないため美海は読むのが遅い。