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ら家臣たちの手を焼かせる存在であった。
そんな信長が、周りを欺くためにうつけの仮面を被り続け、己の才を隠していたとは──…
「嘘じゃ、有り得ぬ!話をはぐらかそうとして、出鱈目(でたらめ)を申しているのであろう!」
一瞬湧いた疑惑を払拭するかのように、報春院はややムキになって叫んだ。
「嘘でも出鱈目でもありませぬ。曇りのない目で殿を見て差し上げれば、自ずと分かる事にございます」
「お濃殿…!」植髮和織髮有何分別?一文了解哪種方式更適合你! -
「本来ならばこのような事は、自身の目で確かめる事に意味があるもの故、安易にお教えすべき事ではないのかもしれませぬ…。
されど報春院様は、殿の実のお母上であらせられます。大殿様亡き後、もはや殿が親御と呼べるのは、報春院様たったお一人」
「──」
「母君として、誰よりもお近くで殿を見守られるべきあなた様には、どうしても、この事実だけは知っておいていただきたかったのです。
殿の為にも。その殿を慕う、私や他の皆々の為にも」
切実に訴えかける濃姫は、その顔に、凄絶で犯しがたい美しさを湛えていた。
報春院も僅かながらに動揺の色を示したが、目の前の嫁は美濃から来た間者──。
何故そんな者の話を、ましてや夫の葬儀であれだけの無礼を働いた信長がうつけではないなどと、どうして信じられようか?
結局報春院は、濃姫の話を素直に受け止めることが出来ず
「…そなたでは話にならぬっ」
と、薄い唇を噛み締めながら立ち上がった。
「義母上様…」
「美濃の姫ごときの力を借りようとした、わらわが愚かであった」
そう忌々しげに呟き、報春院は外の廊下へと去って行った。
報春院が足早に廊下を進んでゆくと、ちょうど廊下の突き当たりの所に、神妙な面持ちの林秀貞が、
自身の弟で、同じく織田家臣である美作守・林通具(はやしみちとも)を背に従えて待ち構えていた。
「大方様──。濃のお方様へのご説得、如何でございました?」
「お方様はご承諾下さいましたか?」
林兄弟が伺いを立てると、報春院は何とも不機嫌そうな顔をして彼らを睥睨した。
「あの者は駄目じゃ。信勝殿ではなく、信長殿が家督を継ぐのが道理じゃと言いおった」
「何と─!?」
「所詮は美濃の蝮の娘じゃ。織田家の行く末の事などまるで考えておらぬ。
挙げ句の果てに“信長殿はうつけではない”“信勝殿よりも国を治める才に優れている”などと言いおってのう」
「あのお方様がそのような事を…?」
秀貞は怪訝そうに眉根を寄せた。
「まぁ、大方わらわを欺くための偽りであろうが……にしても、あの姫の讒言(ざんげん)の数々は、今思い返しても腹が煮える」
「大方様─」
「とにかく、あの嫁御は駄目じゃ。物の役に立たぬわっ」
報春院は怒りを露にして叫ぶと、林兄弟をその場に残し、自身はさっさと行ってしまった。
通具は軽く頭を下げて報春院を見送ると
「奥を味方に引き入れることが叶わぬとは…。あてが外れましたな」
難しい顔をして黙している秀貞に告げた。
「如何でしょう、兄上。ここはいっそ、清洲の信友様に事の次第を申し上げ、お力をお貸りしては?」
「……うつけではない…あの殿が…」
「兄上、いったいどうなされたのです?」
通具が顔を覗き込むようにして訊くと、秀貞もハッとなり
「あ、ああ…。そうじゃな。…それも良いかもしれぬ」
と、心に掛かる思いを押し隠し、作り笑顔で答えた。