[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
二人は波で揺れる甲板をふらりふらりとしながら歩いた。
沖田が先に座り、美海に手を差し伸べる。
美海もベンチに着席した。
「何が…書いてあるんでしょう?」
「さぁ…。けれど、一応取調日記な訳ですから監察の仕事の内容とかじゃないですか?」
美海はふと学校などで書く日誌を思い出した。
その日の出来事を要約してまとめてあるのだろう。
「開けますよ?」
美海は頷いた。
沖田がペラリとページをめくる。
「文久3年、3月20日、土方さんが怪しい奴を連れてくる」
沖田はチラリと美海を見た。
「はい。どうやら私ですね」
この頃から書き出したのか。【生髮藥】胡亂服用保康絲副廠,可致嚴重副作用! -
「続き読みますよ?」
沖田の言葉に美海は頷いた。
「まだ壬生浪士組ができて少ししか経っていないのに大丈夫なのだろうか。とりあえず身柄取調開始。…まぁこんなもんです。後は長いから飛ばします」
「4月21日、土方さんと怪しい奴が決闘。これに勝った怪しい奴は立花美海。奴は正式に入るらしい。俺は馴染めてへんのになんや気に食わん」
「…………」
美海は海を睨み付けた。
「気に食わないらしいですね」
沖田は笑いを堪えている。
再びペラペラとページをめくり出した。
小さな事件は飛ばしている。そのぐらい量が多い。
「3月25日、立花美海の正体。どうやら奴は女だ。いいのか?更にこの時代のものじゃないらしい。よぉわからん。……もうバレてますよ?」
「ですね」
美海は呟いた。
「6月3日」
「またえらい飛びましたね」
沖田が続きを言う前に美海が口を挟んだ。
「なんか間も別に面白くなかったんで」
「あ。そうですか」
「6月3日、大阪の力士と乱闘」
「あ~。あったあった」
美海は頷く。
「相手は10人弱の力士。壬生浪士組圧勝。沖田さんと芹沢さんが大活躍した模様」
沖田は一瞬ニヘラと笑った。
「私のことは?」
「書いてません」
結構頑張ったのにな。
あ、山崎さんは私が気に食わないのか。
「8月18日、八月十八日の政変。着いたものの会津が門を開けない。土方さんが…」
これについては長々と詳細が書いてあった。
新撰組初の大仕事だったからだろうか。
「なんか、普通に仕事内容ばかりですね」
正直飽きてきた。
沖田も困った顔をする。
土方はこんな仕事内容を全て読ませるつもりで渡したのだろうか。
そりゃ死者の歴史を知ることは大切だけれども…。
「あ。段々美海さんへの印象が良くなってるみたいです」
「本当だ。美海ちゃんになってる」
再び沖田は口を開いた。
「9月13日、新見さん切腹。新撰組初の局中法度違反。まぁ美海ちゃんの暗殺も企んでたみたいやから切腹させるべきやけど…。複雑な気分」
沖田は口を止めずに次も読む。
「9月18日、芹沢さん暗殺。美海ちゃん大丈夫やろか。沖田さんと大乱闘を起こしたみたいやけど…。なんか悪いことしたわ…。後味悪い」
山崎さん。
「9月25日、壬生浪士組が新撰組に。なんか最近雰囲気もいいし、楽しい。土方さんについてきて…良かっ………」
沖田は黙って日記に目を通し始めた。
美海はその様子をただ見ている。
沖田の目線が早く動く。
「美海さん……」
「はい?」
「わかりました」
沖田は日記を美海に見せた。美海は少し顔を近づける。
「土方さんは仕事の記録なんかじゃなくて、これを見せたかったんです」
沖田が日記を指しているが冒頭を読む限り何も変化はない。
美海は首を傾げた。
「最後まで読んでみてください」
文字に馴れたと言えど、始めからきっちり読まないとよくわからないため美海は読むのが遅い。
バサッ
『誠』と書かれた旗が蒼い空に向かい、立っている。
京の街並みを茶色い頭の少年と竹串をくわえた少年を先頭に颯爽と歩く団体。
彼らは浅葱色のダンダラ模様の羽織を着ており、道行く者は皆、道を開ける。
「キャー――――――!」
近くの呉服屋から叫び声が聞こえた。
茶髪の少年と串をくわえた少年はニヤリと目を合わすとその方角に走り出した。
バタバタバタバタ!
ガラッ
「御用改めである!新撰組だぁ!」【生髮藥】胡亂服用保康絲副廠,可致嚴重副作用! -
「な!立花 美海に沖田 総司!?…チッ…面かるぞ!」
ダッ
「美海さん!」
「はい!」
ドスッ
バタッ
「大丈夫です。峰打ちですよ。さっさと捕まってください」
美海と呼ばれた少年は走ってきた浪士を峰打ちした。
茶髪の少年は立花 美海。現在19歳の少女だ。
美海は新撰組最年少で、新撰組にはかかせない剣の使い手でもあり、医者だ。
現代では、附属病院の最年少で医者の卵であった。
文武両道。なんでもできた。
学生時代、剣道をしており、優勝常連者であった。
約1年前、手術室で倒れた後、気が付いたら江戸時代、幕末の京にいた。
副長の土方を打ち破り、現在新撰組にお世話になっている。
江戸時代ではあり得ない茶髪と、黒い刀で京の有名人だ。急所を一気に刺して相手を倒すという得意技があり、『黄金の蜂』という異名がついている。
目元が涼しく、鼻筋も通っている。容姿端麗とは正に美海の事だ。
「ひ…ひぃぃぃ…!」
残りの浪士は怯えきっているものの、未だ刀を向けている。
「ちょっと~やめときなさいよ。どうせあなたたちが負けるんだから。痛くなくて捕まるほうがましでしょ?」
「沖田…なめやがって…!」
浪士達は意を決したように刀を構え、走り出した。
「はぁ…やるんですか…」
ペッ
少年は刀を構えると、口から竹串を吹き出した。
ドッ
ドンッ
ガンッ!
バタ…
速かった。この少年は浪士達を1人で峰打ち、足蹴で倒したのだ。一見華奢だが、その脚力と剣の腕は怪物ものだ。
「ふぅ…」
この少年は沖田 総司。
新撰組一番隊隊長。
髪は蒼に近い黒で優しそうな顔つきの好青年だ。
新撰組で1.2を争う程の剣の使い手である。
得意とする技は三段突きというものだ。
美海が来るまでは新撰組最年少であった。現在20歳である。
ちなみに極度の甘党だ。
天然理心流である。
「終わりましたね。じゃあ連れて帰りましょうか!」
隊士が浪士に縄を掛けている。
彼ら一番隊は今日、街の巡回に来ていたのだ。
新撰組は会津藩御預りの治安隊で京の治安を守るため、過激派不逞浪士や論者を取り締まっている。
彼らは『人斬り集団』などと呼ばれるが、本来なら捕縛の所、大抵は相手が斬りかかってくるため、やむ無く斬るのである。
そんな彼らは冷酷なのかと言われればそうではない。
けあるな。 “ ときは今 あめが下知る ” などと…」
「の句を詠んだまでにございます。何か不都合でもございましたでしょうか?」
「……」
「他にご用がないようでしたら、出陣の仕度もあります故、これにて失礼致します」
光秀は会釈して、紹巴の前から去ろうとした。
紹巴はギリッと奥歯を噛み締めると
「あれは! を意味する句ではありませぬか!」
光秀の背に噛みつくように言い放った。
その、光秀の足が止まり、紹巴に半身を向けた。
「……謀反?」
まるで子供の冗談に付き合う親のような顔をして、光秀はめしい表情の紹巴を見据える。
「ち、“ ときは今 ” の『 とき 』は、明智氏の嫡流である『 氏 』のこと。
“ あめが下知る ” は、置き換えれば『 天下をる 』という意味になりまする。【生髮藥】胡亂服用保康絲副廠,可致嚴重副作用! -
あなた様は『 土岐氏の流れをむ己が、天下を治める 』と、そう詠まれたのではありませぬか!?」
「……」
「今、あなた様が天下を取るには、主君である信長公を追い落とさねばならない。もしや明智様は、まことに信長公を──」
「口をおみあれ」
光秀は振り返り、相手の言葉をるように低い声でめた。
視線の先の紹巴を、冷やかな瞳で見つめると
「謀反とは、何と不吉なことを。に対しても、また上様に対しても、実に無礼千万なお言葉にございますぞ」
あくまでも落ち着いた口調で、しかし、どこか殺気立つものをしながら、光秀は毅然として告げた。
紹巴は言い返すこともなく、粘るような目で光秀を見据える。
すると、ややあってから、光秀の面差しにやかな笑みが浮かんだ。
「されど、さすがは名にしう連歌師の紹巴殿にございます。某が詠んだ上の句一つに、
そこまでの意味をお悟りになられるとは、いやはや、お見事にございまする」
「…光秀様」
「しかしながら、物は言い様という言葉があるように、どんな句にも、作者の意図を無視して様々な解釈が出来るものです」
「何がりたいのです?」
「これは例え話にございますが、某が詠んだ五月雨の句が、まことに謀反を意味する句だったと致しましょう。
しかし、その後に続けて詠まれた紹巴殿の句とて、謀反に賛同する句とも取れましょう?」
何っ、という顔で紹巴は光秀の得意顔を見やる。
「紹巴殿の理屈で考えるのであれば、某が詠んだ句が『 土岐氏の流れを汲む己が、天下を治める 』と置き換えられるのであれば、
紹巴殿が詠まれた “ 花落つる 流れの末を せき止めて ” は『 信長様を討ち、その勢いを止めて下され 』とも解釈でき、
あなたが、某の謀反を後押しして下さっているとも読めるのですが──ですかな?」
「わ、わたしは決してそのような!」
「世間の人々というのは口さが無いもの。かような話を聞けば、誰もが連歌師・里村紹巴殿は謀反の協力者と、
…いや、頭の冴える者ならば、某をき付けた、謀反の真の首謀者と思い及ぶやも知れませぬ」
紹巴は思わず唖然となった。
紹巴自身は、光秀の句の裏の意味を察して、“ 花 ” を信長、“ 落つる ” に謀反失敗の意味を込めて、
『 信長様への御謀反は思い留まるように 』 と、める句を詠んだつもりであったが、
このような形で逆手を取られ、我ながら不覚と思った。
面差しをきつくしてゆく紹巴を見て、光秀はふっと忍び笑いを漏らす。
「ご案じあるな。あなた様の某の句に対する解釈がそうであるように、某の解釈も、ただの推測に過ぎませぬ」
「──」
「故に、もうお忘れ下さいませ。某も、ここであなた様と話したことは忘れまする。
記憶に
濃姫も信長と同じように部屋の中を見回してみたが、同意は出来なかった。
この御居間だけでも十二畳の広さである。
他にも六つ間が隣接している為、濃姫一人の生活空間としては十分な広さと思われた。
「狭いという事はございますまい。私には広過ぎるくらいで──」
「いや、やはりここは狭い!狭過ぎる!」
信長は急に声を荒げて立ち上がると
「お濃、そなた清洲の城に移り住みたいとは思わぬか?」【生髮藥】胡亂服用保康絲副廠,可致嚴重副作用! -
濃姫の怪訝顔に、思わぬ問いを浴びせた。
「清洲…でございますか?」
「そうじゃ、清洲だ」
「されど、清洲の城には守護代の信友殿がおわしまする」
移り住むなど不可能であろうと、濃姫が思わず苦笑すると
「織田信友はもはや守護代にあらず。──あやつは今や、ただの逆臣じゃ」
信長は侮蔑を込めて言った。
「逆臣…と仰せられますと…」
「逆臣の意味が分からぬなどと申すなよ? 謀反じゃ、清洲の阿呆ぅ共めが主君殺しをしおったのだ」
「 ! で、では、守護の斯波義統様を !?」
「討ち取りおった。自害に追い込む形でな」
虎視眈々と義統の隙を狙っていた清洲勢が、とうとうその好機を見つけ出したのは同年の七月十二日。
あの花見の宴から僅か三ヶ月後のことであった。
この日 清洲城内の守護邸に詰める屈強な家臣たちは、義統の嫡男・義銀(よしかね)の川狩りのお供の為に、運悪く全員出払っていた。
これを密偵から伺った坂井大膳、河尻与一、織田三位の家老衆は
「報(しら)せによれば、邸内に主力となる武士たちはおらず、老人らが少々の残っている程度とのこと」
「今ならば守護殿は無論、その一門、古参の家臣らを纏めて片付けることが叶いまする!」
「これぞ待ちに待った、絶好の好機というもの! 邪魔立てが入る前に、一気に攻め込みましょうぞ!」
彼らは相談の末、すぐさま兵をかき集めて守護邸に向かい、その周りを厳重に包囲した。
邸内は無論手薄の状態にあったが、表広間の入口では善阿弥なる同朋(どうぼう)衆。
狭間を守っていた森政武、掃部助兄弟、また丹羽祐稙など守護側の家臣たちが、
向かい来る敵臣を次々と斬り倒していった為、清洲勢も多大なる損害を受けたのである。
しかし、守護邸を囲む四方の屋根の上より清洲の射手(しゃしゅ)たちが、それこそ矢継ぎ早に射立てて来た為、
さすがに守護側もこれ以上は防ぎ切れず、邸内の最奥に身を潜めていた義統も自身の最期を覚悟した。
「…主君であるこの儂が、信友如き傀儡守護代に討たれようとは…。
何が和合じゃ…何が友好じゃ。あの大嘘つきめがッ」
義統は清洲方への怨みを吐き捨てると、邸に火を放ち、従叔父の義虎や弟の統雅など、親族三十名余りと共に自害して果てたのである。
ら家臣たちの手を焼かせる存在であった。
そんな信長が、周りを欺くためにうつけの仮面を被り続け、己の才を隠していたとは──…
「嘘じゃ、有り得ぬ!話をはぐらかそうとして、出鱈目(でたらめ)を申しているのであろう!」
一瞬湧いた疑惑を払拭するかのように、報春院はややムキになって叫んだ。
「嘘でも出鱈目でもありませぬ。曇りのない目で殿を見て差し上げれば、自ずと分かる事にございます」
「お濃殿…!」植髮和織髮有何分別?一文了解哪種方式更適合你! -
「本来ならばこのような事は、自身の目で確かめる事に意味があるもの故、安易にお教えすべき事ではないのかもしれませぬ…。
されど報春院様は、殿の実のお母上であらせられます。大殿様亡き後、もはや殿が親御と呼べるのは、報春院様たったお一人」
「──」
「母君として、誰よりもお近くで殿を見守られるべきあなた様には、どうしても、この事実だけは知っておいていただきたかったのです。
殿の為にも。その殿を慕う、私や他の皆々の為にも」
切実に訴えかける濃姫は、その顔に、凄絶で犯しがたい美しさを湛えていた。
報春院も僅かながらに動揺の色を示したが、目の前の嫁は美濃から来た間者──。
何故そんな者の話を、ましてや夫の葬儀であれだけの無礼を働いた信長がうつけではないなどと、どうして信じられようか?
結局報春院は、濃姫の話を素直に受け止めることが出来ず
「…そなたでは話にならぬっ」
と、薄い唇を噛み締めながら立ち上がった。
「義母上様…」
「美濃の姫ごときの力を借りようとした、わらわが愚かであった」
そう忌々しげに呟き、報春院は外の廊下へと去って行った。
報春院が足早に廊下を進んでゆくと、ちょうど廊下の突き当たりの所に、神妙な面持ちの林秀貞が、
自身の弟で、同じく織田家臣である美作守・林通具(はやしみちとも)を背に従えて待ち構えていた。
「大方様──。濃のお方様へのご説得、如何でございました?」
「お方様はご承諾下さいましたか?」
林兄弟が伺いを立てると、報春院は何とも不機嫌そうな顔をして彼らを睥睨した。
「あの者は駄目じゃ。信勝殿ではなく、信長殿が家督を継ぐのが道理じゃと言いおった」
「何と─!?」
「所詮は美濃の蝮の娘じゃ。織田家の行く末の事などまるで考えておらぬ。
挙げ句の果てに“信長殿はうつけではない”“信勝殿よりも国を治める才に優れている”などと言いおってのう」
「あのお方様がそのような事を…?」
秀貞は怪訝そうに眉根を寄せた。
「まぁ、大方わらわを欺くための偽りであろうが……にしても、あの姫の讒言(ざんげん)の数々は、今思い返しても腹が煮える」
「大方様─」
「とにかく、あの嫁御は駄目じゃ。物の役に立たぬわっ」
報春院は怒りを露にして叫ぶと、林兄弟をその場に残し、自身はさっさと行ってしまった。
通具は軽く頭を下げて報春院を見送ると
「奥を味方に引き入れることが叶わぬとは…。あてが外れましたな」
難しい顔をして黙している秀貞に告げた。
「如何でしょう、兄上。ここはいっそ、清洲の信友様に事の次第を申し上げ、お力をお貸りしては?」
「……うつけではない…あの殿が…」
「兄上、いったいどうなされたのです?」
通具が顔を覗き込むようにして訊くと、秀貞もハッとなり
「あ、ああ…。そうじゃな。…それも良いかもしれぬ」
と、心に掛かる思いを押し隠し、作り笑顔で答えた。