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「目が怖い目が怖い。」
元からある眼力が更に凄みを増し,若干血走ってるのがより怖い。
「夫婦なんですから遠慮するのはやめましょう。ね?あなた。」
桂は三津を抱きしめて啜り泣いた。情けない声で何度も三津の名を呼んだ。三津はまた泣いてと呆れながら背中を擦って宥めた。
「あなたとも離れる事にはなりますが九一さんから離れてる方が安心やないですか?」
「そりゃそうだが……。もし私に何かあった時に三津を託せるのは九一しかいない……。九一の事は信頼してる……。だから矛盾してるとは思うが九一からも離れて欲しくない……。」
『この人は本当に私の事ばかり考えてはるんや。』植髮和織髮有何分別?一文了解哪種方式更適合你! -
京に居た時もそうだ。何が起こるか分からないから,念の為とあちこちに手を回してくれていた。今も先を見据えて考えてくれている。そう思うとこそばゆい。
「今日はもう何も考えないでゆっくりしましょ?」
「そうする。三津はいつも通り仕事をしててくれ。」
桂は延べた布団に横になり,三津は部屋を出た。
廊下を歩いてると入江と高杉,山縣と伊藤が縁側に集まっているのが見えた。
「おっ!松子!ちょっと来いっ!」
高杉がいい所に来たなと手招いた。
「何で松子……。」
いや松子だけどもと不満げな顔をしつつ四人の輪に混じった。「木戸さんは?」
高杉は面白い事になったなぁ!と無邪気に目を輝かせていた。多分彼の中で色んな妄想が展開されてるに違いない。
「お疲れで横になってます。なんで部屋の近くでは静かにして下さいね。」
高杉と山縣は群を抜いて騒がしいからと釘を刺した。
「何話したん?」
入江はこれでいいのかとまだ戸惑っていた。三津も同じで困惑した顔でぎこちなく笑った。
「小五郎さんにとって,とにかく私が姿を消すのが耐えられないそうです。それと九一さんの傍を離れるのも駄目だと。自分にもしもの事があった時,託せるのは九一さんだけだそうで。」
「それも難儀やなぁ。嫁ちゃんは一人がええのになぁ。でも入江とも出来るし解決は解決か?」
山縣は面白い事にはなったが三津に新しい生活を与えてやる方がいいと主張した。三津はここまで親身になってもらえるとは思わず,ぽかんと山縣を見つめた。初めて会った時とは別人のようだ。
「木戸さんそんなん言うたん?そこまで信頼されとると……。気が引けるな。」
入江と三津は顔を見合わせてどうしようかと互いに困惑した。
「木戸さんの作戦か?まぁそこも後はお前ら次第か。二人でも話して来いや。ついでに外でよろしくやって来い。」
高杉は二人に行った行ったと手で払う仕草をした。
「そうやな。ちょっと話そうか。」
入江は行こうと三津を連れて屯所を出たが,行く所は海しかないなぁと海岸に出た。三津は本日二回目の海岸。
「九一さんは……どう思います?この提案。」
「嬉しいっちゃ嬉しいけど,多分木戸さんは嫉妬で三津に当たると思う。でも一蓮托生やと私を遠ざけようとせん。困った。
嬉しいけど……罪悪感が前よりも……ね?」
三津は激しく頷いた。前よりも罪悪感が居座ってくる。駄目と言われたら逆らいたくなるのに,どうぞと言われるとどうしたらいいか困る。それに自分の事を想ってだと分かったから余計にだ。
「まぁ……好きにしろと言われたから好きにしようか。」
入江は私達のカタチをまた模索しようとにっこり笑った。三津は何か考えてる笑顔だなぁと思いながらそうですねと頷いた。
その日の夕餉は,桂が今日は夫婦水入らずで食べたいと言ったから自室で二人で食べた。
「懐かしい。」
桂はそう言って嬉しそうに笑っていた。相変わらずお味噌汁を美味しそうに飲んでくれる。三津はそれが嬉しかった。
「すまないね。こんな夫婦ごっこに付き合わせて。」
桂は広間で賑やかにみんなといた方が楽しいだろうと,目を伏せて申し訳なさそうにしていた。
「今は私と話す時間だろ?私だけ見て?」
三津の顎先に手を添えて自分へと振り向かせた。
「……私らも邪魔みたいやわ。お菓子だけもらって退散しよか。」
『文さんよっぽどお菓子食べたいんやな……。』植髮和織髮有何分別?一文了解哪種方式更適合你! -
そんなにいいお菓子ならどんな物かかなり気になる。三津は文が奪い取った包みを見つめた。
「ここでみんなで食べたらいい。君達と無邪気に話す三津を見られるなら構わない。」
穏やかに余裕を持ってそう言ったことを桂はこの後酷く後悔する事となる。文と幾松が揃ったところで無事で済むはずがない。
文と幾松の前で正座をさせられくどくど小言を言われ続けた。
女四人を侍らせて羨ましいとその眼差しを向けていた山縣だったが,どう見ても精神的苦痛を与えられる桂の姿に自分は嫌われてて良かったと思いながら遠巻きに眺めた。
桂は足が痺れる前に隙をついて逃げ出した。その晩三津に晩酌に誘われた高杉が縁側に回るとすでに赤禰が三津を横に置いて酒を呑んでいた。
「三津さん話ってなんや。」
単刀直入な高杉を座らせてまぁまぁまず呑みましょうよと酒を勧めた。
「今日三津さんと宮城さんとこ行ってきたほ。それでな高杉に伝言預かったんや。」
「誰から?」
「宮城さん。」
「ぶっ!」
高杉は口に含んだ酒を思わず吹き出した。そんな訳あるかと手の甲で口元を拭った。
「毎月しんみりと謝りに来るぐらいなら面白い話と酒を持ってこいやって。」
高杉は片膝を立ててもう一口酒を含んだ。あそこに行ってるのは誰にも言ってない。謝りに行ってるなんて誰も知らない。
なのに何故知っている?当てずっぽうか?かまでも掛けてるのか?高杉は色んな推測をひねり出そうと黙り込んだ。
「宮城さん俺らの事恨んどらんって。自分より若い,才あるお前が逝かんで良かったって。長州引っ張る力があるんやけぇしっかりやれやって言われた。」
俄には信じ難いと言う顔で高杉は赤禰の言葉を聞きながら少しずつ酒を呑んだ。
非現実的な話だが真面目が取り柄の赤禰がわざわざそんな作り話するだろうかとも思う。
「三津さんの入れ知恵か。」
「そんな事しませんよ。武人さんが宮城さんと向き合って預かった伝言です。その時私は武人さんの背中にもたれてうとうとしてました。」
「寝よったんかい。」
呆れた顔をする赤禰に三津はヘヘっと笑った。
「武人さんの背中が温かくて気持ち良かったんでつい。」
「あんま男の側で無防備に寝ちゃいけん。」
「武人さんの側もアカンのですか?」
いつもお酒呑んでそのまま寝ちゃうの駄目ですかと言われ返答に困った。
「それ以前に墓の前で寝るなや。流石三津さんやけども。宮城さんそこは何も言わんかったんか?」
高杉もそれには呆れて喉を鳴らして笑った。
「女を待たせるもんやないからもう行けとは言われた。」
それは退屈してると思われたのかもしれない。悪い事しましたねと三津は苦笑しながら赤禰に酒を注いだ。
「それぐらいで機嫌損ねるような宮城さんやないっちゃ。それにこんな俺でも恨んどらんって言うんやけぇ大丈夫や。
次行く時に三津さんの話聞かせちゃり。向こうで腹抱えて笑うかもしれん。」
そこで高杉は思いついた。
「宮城さん偲んで三津さんも一杯だけ。」
献盃をとお猪口に酒を注いで三津に突き出した。故人を偲べと言われたら断れない。三津は受け取ったお酒を少しずつ喉へ通した。三津がご馳走様とお猪口の縁を指で拭うのを眺めてから高杉は問いかけた。
「何で俺がお参りに行っとるの気付いたん?」
「んー勘?武人さんに連れられて歩いてる時に思い出してたんです。私自身が新ちゃんに謝る為にお墓に通ってたのを。」
「三津さんは何を謝りに行っとったん?」
「なるほどな!三津さんは優しさに飢えとるんなら俺がとことん甘やかす!それで俺のモンやな!」
善は急げ!と三津を追おうとした高杉の首根を吉田が掴んだ。
「玄瑞,こいつに三日の猶予も要らなかったよ。今すぐ放り出そう。」
「帰してもどうせ投獄だ。ここで始末しとくか?」
高杉に容赦ない言葉を浴びせる吉田と久坂を入江はにやにや見ていた。
だが頭の中は三津が中岡に見せたあの表情でいっぱいだった。植髮和織髮有何分別?一文了解哪種方式更適合你! -
『私にもあの顔はしてくれないなぁ。』
自分を見つめるあの顔が欲しい。どうやって引き出そうか。入江は静かに悟られぬように考えた。三津は仮自室に戻って上機嫌で針仕事をした。
中岡は自分と桂じゃ不釣り合いだと言わなかった。それが嬉しかった。
桂の方が苦労すると言った人は初めてだ。
『小五郎さんが私で苦労する事はないよなぁ〜。高杉さんとか長州の事で苦労しはっても。』
私の方が桂の女絡みで心配事が絶えないよと笑った。
「嬉しそうだね。」
「そう見えます?」
……と答えてハッとした。ごく自然に話しかけられたから普通に返事をしたがこの部屋には自分しかいない。
ゆっくり顔を上げると桂が笑顔で見下ろしていた。
「い……いつの間に。」
音もなく現れるのは心臓に悪いから止めてほしい。
「何がそんなに嬉しいの?何で中岡君にあんな顔したの?」
「あ……あんな顔……って?」
また間抜け面だったのだろうか?それは大いに有り得る。間近であんな笑顔を見せられたんだから馬鹿みたいに呆けてたに違いない。
「中岡君に恋したような顔してたよ。私がいるのに他の男にそんな顔するなんて許せないね。」
「は?恋?」
全く予想外のお言葉をいただいた。恋する顔とは一体?恋愛経験の浅いこの私が恋してる時の顔とは一体どんな顔なんだ?
「あんな顔久しく見てないのに中岡君にはするんだね。」
「いや,だから……。」
どんな顔か自分じゃ分からないんだと反論したかったが,それを聞く耳も持たずに桂は三津を押し倒していた。
「帰ったら……許さないから……。」
最高の笑顔で見下された三津は一気に血の気が引いた。
真っ青な三津に覚悟しといてねと追い打ちをかけて桂は部屋を後にした。
『何でやっ!』
がばっと起き上がった三津は誤解を解かねばと廊下に飛び出した。
理不尽極まりない。それならあんな間近に顔を寄せた中岡に問題があるだろう。
誤解は早いうちに解かなければ後々面倒になる。
三津が焦って廊下を走っていれば広間から中岡達が出て来た。
ぶつかる!と思い慌てて立ち止まってつんのめった三津に中岡が気付いた。
「お嬢さん見送りに来てくれたが!いやぁ嬉しいのぉ。」
三津に近寄るとわざわざ目線を合わせる為に腰を落としてまた近距離で爽やかに笑った。
そしてまた会う機会があれば今度はご飯でもと誘った。
断るのは失礼だと思った三津は喜んで!と答えた。三津からすればただの挨拶。中岡だって挨拶の一環で食事でもと言ったに違いない。
だが嫉妬を抱いた男はそう思わない。
『勝手に食事の約束まで。この警戒心のなさはどうすれば直るんだろうな?』
私の目の前で他の男と食事の約束なんてしないでほしい。それが本音。だけど社交辞令にまで嫉妬しているなんてみっともない。
本音をぶつけたいのをぐっと我慢して中岡を見送った。
「……で,三津はそんなに慌てて中岡さんを見送りに来た訳じゃないよね?」
吉田の言葉に三津は何しに来たかを思い出してチラッと桂に視線を向けた。
「なんだい?」
桂は態とらしく笑って首を傾げた。それを見た高杉以外の三人は,あぁと小さく声を漏らした。
と実のお姉さんの姓で紹介した。それから、伊庭のことはかぎりなく「いだ」ときこえるようにいった。ついでに、野村のことは、「外国人商人の使用人ジョン」と大嘘をこいた。
「宮古湾海戦」の「青年の主張」であれだけ「英雄の野村利三郎」を連呼しまくったのである。野村とはいえないだろう。
もっとも、野村はめずらしい名前ではない。名乗ったところで、あの「たたぬ野村利三郎」であると見破ることはかなりの高確率で難しい。
外国人商人の使用人っ 生髮藥 ていうよりかは、よほど無難かと思うのだが。
「佐藤どん、傷は大丈夫やろうか?」
東郷は、副長の偽装の傷を気遣っている。
なんていい人なんだ。
いまのかれは、言葉は悪いが華奢な超イケメンってだけである。
とてもではないが、日本の戦史だけでなく世界の戦史においても超有名な英雄になる片鱗などどこにもない。 おっと、超有名人にせっかく会えたんだ。握手してもらっておこう。
こんなチャンスは、もう二度とないだろう。
「すみません。握手してもらってもいいですか?」
東郷にそう頼むと、かれは一瞬キョトンとしたになったがすぐに応じてくれた。
「なんてことだ。主計の病がはじまったぞ」
「なんだか複雑ですね。わたしは飽きられてしまったのでしょうか」
「すまぬな、八郎。助兵衛の主計には、あとでいいきかせるからよ」
うしろで、蟻通と伊庭と副長がなんかいっている。
「BL全開ってやつだ」
「そうだね。でも、かれはやっぱり受けだから」
野村と俊春もなんかいっている。
ってか野村よ、BLじゃないし。ってか俊春よ、まだおれを受けあつかいするのか?
「主計さんっていやらしいよね」
「そうだよね、鉄っちゃん。主計さんって、だれでもいいんだ」
さらには、市村と田村がおれのことを誹謗中傷しまくっている。
「東郷さん。じつは、おれには特殊な力があるのです。未来がみえ、知ることのできる能力です。将来、あなたはこの日の本を救い、世界的に有名な英雄になります。いまは大変かもしれませんが、未来を信じてがんばってください」
「本当じゃしか?そんた、うれしかねぇ。おはんの言葉で、これからきばれそうじゃ」
東郷は、にっこり笑った。
わお。こんな胡散臭い話しを信じてくれている。
めっちゃいい人すぎだろう。
やっぱこんな好人物が、日本を代表する英雄になれるんだ。どこかの「鬼の副長」程度とは、レベルがだんちすぎる。
「いたっ!」
結論にいたった刹那、後頭部をグーパンチされてしまった。
こんなことをするのは、心が狭すぎるイケメンしかいない。
「東郷さん、すみません。兎に角、お会いできて光栄です」
「おいどんも光栄じゃ。じゃ、失礼すっ」
未来の英雄は、さわやかな笑みを残して去っていった。
ちなみに、かれもまた西郷を慕っている。後年、かれはイギリスに留学をする。イギリスからの帰国途上に、西南戦争で西郷が自害したことを知るのである。
その際、かれは「自分が日本にいたら、西郷のもとに馳せ参じたのに」とその死を悼むらしい。
「将来、かれは歴史的にも世界的にも有名な元帥海軍大将になるのです。そんな有名人と会えたのです。握手しないわけにはいきませんよ」
「へー、あんなに華奢でちょっと頼りなさそうなのにな」
「でも、それってすっごくですよね」
事情を説明すると、蟻通と市村が驚いた。
「よかったじゃないか、八郎。おまえは、BL攻めでらしいぞ」
「安心しました」
ええっ?
副長の理不尽な思い込みは別にしても、伊庭の「安心しました」ってのは?いったい、どういう意味なんだ?
「いやらしい」
「いやらしい」
俊春と田村のつぶやきがきこえてきた。
「ってか副長、おれのことはどうでもいいんです。ちょっとは怪我人らしくしてください」
「おっと、そうだった」
ったくもう、しょうのない人だ。
というわけで、おれたちは薩摩藩の船で早朝に蝦夷を去った。
生き残ることはわかってはいるものの、新撰組のみんなの無事を祈らずにはいられない。
離れ行く蝦夷の大地を眺めながら、みんなの無事を祈りつづけた。
東郷が配慮してくれたのであろう。船室を二部屋、つかわせてもらうことになった。
とはいえ、二部屋とも狭い。それでも、ほかの傷病人たちは船倉や廊下、より狭い船室におしこめられているので、これは破格の待遇である。
その一部屋を、蟻通と伊庭と野村が使い、わずかに広いもう一部屋を残りのおれたちが使うことになった。